法人化した農業は一般的に「農業法人」と呼ばれ、農地を利用せずに農業を営んでいる法人と、農地を利用して農業経営などを行う法人を合わせた総称となります。法人化することで補助金制度を利用しやすくなったり、税制上の優遇措置を受けやすくなったりなどいろいろなメリットを享受できますが、その一方でデメリットも存在します。ゆえに法人化する際は、しっかりと目的意識や将来の展望を持って経営に当たることが重要となるでしょう。ここでは、そんな農業の法人化によるメリットとデメリットについて解説します。
農業法人化によって得られる経営上のメリット
・家計と経営の分離による経営体としての確立及び経営管理の徹底
家計は法人からの給料などでまかなうことになるので、生活資金の定期化や定額化が期待できます。さらに、収入が定期化・定額化されることで家計を計画的に管理できるようになるでしょう。また、所得は経営の参加者である従事者や構成員に配分されるようになるので、労務の対価として適切な給料の支払いが可能となります。
・経営の合理化
企業的経営によって会計に企業規則が適用されるので、経営内容の正確な把握が可能となります。それに従って経営内容がはっきりと数値化されますから、組織として運営基盤が合理化され、経営の充実や改善が図れます。給料などの支払いも定期化・定額化するため、従事者や構成員の労働意欲向上にも繋がります。そして、経営者としての社会的責任が高まりますから、経営上の利益や効率性の追求、従事者や顧客への意識向上などが期待できます。同時に計数管理の明確化や各種法廷義務などを伴うことで社会的信用も高まるので、取引先の数や取引の規模の拡大が見込めるでしょう。
・人材の確保と育成
雇用契約の明確化によって、安定した人材確保が可能となります。加えて、従事者や構成員のなかから有能な人材を発掘することで、後継者を確保しやすくなるでしょう。それから、農業法人に就農希望者が就職することで、経営ノウハウや農業技術を少ない初期負担で習得することができます。
農業法人化によって得られる制度上のメリット
・税制 所得の分配によって、事業主への課税が軽減されます。また、報酬の給与所得化によって所得者は給与所得控除を受けられるでしょう。加えて、定率課税の法人税の適用、使用人兼務役員賞与の損金算入、退職給与などの損金算入、欠損金の7年間繰越控除(青色申告の法人のみ)などの利点もあります。そして、農業協同組合法に則って創設された法人(農事組合法人)である農地所有適格法人は、特例として事業税が課税されません。ほかにも、農地所有適格法人の場合は、農業経営基盤強化準備金の適用を受けられたり、農業委員会の斡旋で農用地区域内の農地を取得する際に譲渡所得特別控除の800万円適用を受けられたりといった、いくつかの特典を活用できます。
・制度融資
認定農業者に限り、制度資金の融資限度額が個人よりも拡大されます。そのうえ、スーパーL資金の円滑化貸付による無担保・無保証の貸付を受けられます。ほかにもいくつかの補助金や助成金の制度を利用できます。
・社会保障
社会保険、労働保険の適用によって、農業従事者の福利厚生の増進を図ることができます。それから、就業規則が整備され就業条件が明確化することで、雇用の安定化が期待できるでしょう。
・農地取得
農地保有合理化法人が農地などを現物出資することで、農地取得に関する負担を軽減できます(農業生産法人出資育成事業)。
農業法人化によって発生するデメリット
・税制
所得の少ない経営においては、負担が大きくなります。所得がない場合、経営者が個人なら所得税などは課税されませんが、法人経営では利益がなかったとしても、最低限の地方税を負担しなければいけません。それから、企業会計規則によって会計が複雑化し、手間が増えてしまいます。また、税務申告や会計事務を専門家などに依頼した場合、経費負担が大きくなります。農地の移転が課税対象となるケースがあり、農地を売り渡した場合は、譲渡所得税が課税されます。農地を現物出資した場合は、評価額に対し譲渡所得税が課税されるでしょう。農地の貸付を行った場合は、譲渡所得税の課税はありません。
・社会保障
社会保険などの加入において、経費の負担が求められます。
・運営管理費
法人を運営するうえで必要となる会議や打ち合わせなどを行うことで、経費がかかります。
・その他
解散・廃止する場合、法人の財産はすべて精算しなくてはいけません。そして、解散・廃止から精算が完了するまでには、最低でも2カ月の期間が必要です。さらに解散・廃止の手続きを行う際、専門家などの指導が必要となります。