東京のITサラリーマンが山形の独立農家に転身!新規就農までの経緯とは

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名前
辻 直人
出身
東京都
年齢
36歳

 

 

東京のIT企業に勤務していましたが、とあるきっかけから山形県南陽市に移住し新規就農に成功。農家として新たな人生をスタートさせた辻直人さん。現在は就農から9年目を迎え、桃とキャベツの栽培を行っています。JA山形おきたま青年部の南陽地区副委員長を務めるなど地域コミュニティに積極参加しつつ、加工キャベツは農協の力を借りて出荷し、安定した販路も確保。地域の関連組織や農家仲間たちと協力し合うことで経営状況も軌道に乗り、大活躍中の農家さんです。東京のIT関連から山形の農家という一見真逆に感じる転身。なぜそのような人生を歩むことになったのか?どのようにして新規就農に成功したのか?インタビューを通してその詳細を聞いてみました。

 

Q.農家になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

 

まず前提として、母の実家が山形県南陽市で専業農家を営んでいたので、昔から農業の雰囲気に触れる機会は多少ありました。

東京で高校を出て専門学校を卒業した後、東京のIT関連企業で2年働いていて、そこでとても仕事ができて尊敬できる上司と出会いました。

だけどそんな人でも徹夜の時もあったりして、自分も将来40歳、50歳になってもこうなるのはちょっと嫌だなぁ・・・と思ってしまい、仕事内容自体は好きでも、働き方に悩んでしまうことが時々ありました。

そんな中、大人になった後も長期休暇の際には農業の手伝いに南陽市に通っていたのですが、農家って日が昇るのと合わせて働いて、日が沈んだら休むという、何だか人間らしく生きてるなぁと感じることが増えて・・・自分も農業を始めてみたいと思うようになりました。

 

Q.実際に始める際は、調査や勉強はどのように行ったのでしょうか?


母方の実家に1年ほど居候して勉強しました。そこでは実際には母の兄(辻さんのおじ)が仕事を主導していて、色々と教えてもらいながら農作業を手伝っていました。なので特に研修生になったり学校に通ったりはしていないのですが、周囲の農家さんにも手伝ってもらったりしながら色んなことを学びました。本当に無勉強で、本やインターネットなどで調査も特にしていなかったのですが、それでも何とかやっていけましたね。ただ、しっかり勉強したり研修で技術を持った方々と比べて知識が無いのは自覚していたので、自分から先輩農家さんにアドバイスをもらいに行ったり、自治体やJAが主催する勉強会に顔を出したり、そういった行動は積極的にしていました。

 

Q.ご親戚に農業の大変さを知っている方も多いと思うのですが、反応はどうでしたか?

 

最初は色んな方面から反対されました(笑)

本当にやっていけるのか?せっかく東京で専門学校も出てサラリーマンとして安定してたのにどうするんだ?と。元々、私は自分で決めたことを勝手にやるタイプの人間であることは家族にも把握されているので、気合いと熱意で押し切ったのが一つと、あと一つは今までの経験や知識が無駄になることはないんじゃないか?と反論しました。もしかしたら僕が持っているIT関連の知識や能力を農業分野で活かせるかもしれないですし、さらに言えば、もし農業が難しかったとしてもまた前職と同じような仕事に就いてサラリーマンに戻れるスキルはありますし、1年やってみてダメなら諦めるから試させてくれ!ということを伝えました。だったら1年やってみろ!ということで納得・・・というか折れてもらった感じですね。

 

Q.当初の資金繰りはどうされましたか?

 

前職での貯金と、「農業次世代人材投資資金」の「経営開始型」の資金制度は利用しました。※

運転資金、生活資金は気を付けたほうが良いです。私は親戚の所で農業を始めたので正直ある程度はどうにかなる部分もあったのですが、完全にIターンで移住して就農する方などは、入念に事前調査と計算を行った方が良いと思います。

 

※農業次世代人材投資資金

新規就農者に対し自治体や関連団体が交付金を支給できる支援制度。

「準備型」「経営開始型」の2種類が存在し、「準備型」では研修中の就農希望者に最長2年間、年間最大150万円を交付。「経営開始型」では、農業経営を始めてから経営が安定するまで最長5年間のうち、1~3年目は年間150万円、4~5年目は年間120万円が交付される。

それぞれの制度を利用するには多数の条件や返還規定も存在するため、詳細は農林水産省のホームページでご確認ください。

出典:農林水産省Webサイト
https://www.maff.go.jp/j/new_farmer/n_syunou/roudou.html

 

Q.農家になってみて予想外だったことはありますか?

 

とにかく忙しいことです。サラリーマン時代より忙しいんじゃないかと思っています。雨の日も風の日も働きます。ただ、徹夜とかそういった不健康な忙しさは無くなったのと、自己責任なので自分の都合で休みやすくはなりました。おじの手伝いの時は農作業をして寝るだけだったのですが、自分で独立して販売、経理、全体のスケジュール管理、といった経営サイドのことも考えるようになってからがすごく大変になりました。おじを含めた近隣の農家さんと協力して、お互いの農作業を手伝い合ったりしながら時間を作っています。

 

Q.辻さんの今後の目標を教えてください!

 

まずは自社の経営安定ですが、将来は農業の知識や経験を備えながら人に教えられるような存在になりたいです。周囲には研修や農業学校を経た優等生の方々がいる中、私は全くの知識0の状態でスタートしたので、どんどん先輩方に質問して学ぼうとしました。そんな東京から来た新参者に対して嫌な顔せず色々教えてくれたので、自分もそんな存在になりたいと思っています。このようなリレーを続けていくことで、南陽市の農業が未来に向けて持続できる産業になっていくと思うので、これが先輩農家さんや、受け入れてくれた地域への恩返しになると思っています。

 

Q.新規就農において大切なことはありますか?

 

私の経験から、できれば農業以外のところで収入源を持つと良いです。独立して初期のうちは品目が少なくて農閑期ができやすいのですが、一方で資金の余裕は無く不安定な状態で進んでいくのが普通なので、何かアルバイトなどを並行していくのが良いと思います。ここは山形県なので、冬に町内の除雪作業をしたり、スキー場で働いている方もいます。私も最近までは週6日で、朝6時~8時は物流センターで荷物仕分けのアルバイトをして、その後9時まで休憩してから自社の農業に入るようなスケジュールで生活していました。

 

それと、農業や地方移住に対して心の余裕を持って取り組むことが大事だと思います。私は今でも前職のIT企業時代の先輩と仲が良く、今も趣味でソフト作りをしてレビューをもらったりするのですが、「今でも戻れるんじゃない?」と言ってもらえています(笑) 

私の場合はリスクヘッジ的な意味合いもあるのですが、農業が一生懸命頑張ってもどうしてもダメだった時に、他のことができて生きていければ何でも良いと考えています。そのくらいの心の余裕をもってチャレンジした方が、農業が予想以上に体力も使うし忙しいという現実を知った時にも、何とか乗り越えることができます。

 

野菜やフルーツ作りに関しては、まじめに取り組めば何とかなります。テッペンを目指すのは大変ですが、妥協もできるので平均を見るのも良いと思います。平均から抜け出すのは突出した何かにチャレンジしている人で、そこには失敗のリスクもあります。上を目指すのが悪いのではなく、焦らずに自分の状況をわきまえて心や時間の余裕を作ってコツコツ取り組むことも大切だと思っています。

 

Q.これから新規就農を目指す方にアドバイスをお願いします!

 

お話しした「心の余裕を持ったほうが良い」という話も、実は私が先輩農家さんから聞いた話なのですが、こういったアドバイスを受けるためにも、とにかく地域に馴染むことが大事だと思います。私は南陽市に移住して1年目はおじの農地で作業をするだけだったので、ご近所付き合いは何も無かったのですが、独立後は勉強のためにJAが主催する品目ごとの研修会などに参加するようになりました。そこで皆さんから「誰だ?」という顔をされた気がしまして、だけど向こうからは話しかけてはもらえないのです。実際そんなものですよね。なので私は、その場で同年代くらいの人に話しかけまくりました!

 

気づけば今私はJA山形おきたま青年部の南陽地区副委員長を務めていまして、知り合いも増えました。おかげで忙しい時は農作業を手伝い合ったり、国や自治体から出る補助金や支援制度の情報交換をしたり、営農の面でもすごく助かっています。農業系のコミュニティでも、地元のコミュニティでも何でも、組織に入るというのはすごく大事だと実感しました。ただ、ものによってはけっこう面倒な時もあるし飲み代もかかるのでバランスが大事ですね。(笑)

 

とにかく地方に移住して農家になる場合は、積極的に存在を知ってもらいにいくことが大切で、地域に馴染めるかどうかは本人の性格とか経歴とかではなく、そこで自分から行動するかどうかの差でしかないと思います。具体的に役立った例も話しましたが、それ以前にそもそも同じ土地でずっと生活を続けるのであれば、単純に友達や知り合いは多い方が良いですよね。

 

少なくとも私がいる南陽市では、移住や新規就農しやすくなる制度が準備されていて、農業未経験で異業種出身の若者でもすごく歓迎してくれます。私と同年代の30代の人にもドンドン来て欲しいですし、皆で協力して楽しく頑張れる環境を作っているので、「移住しても孤立して苦労してしまうんじゃないか?」という心配はしないでほしいです!

 

インタビューを終えて

 

様々な情報が世界中で飛び交い、生き方や働き方への疑問を感じて生きている人が多い現代社会。辻さんも、元々はそこで悩んだ一人でした。脱却を図るように心の余裕を求め、より人間らしく生きることを望んで農家になったとのことですが、インタビュー中もご自分の状況を活き活きと話してくださる様子を見ていて、どうやら当初の目的は達成、あるいは大きくそこに近づいているんだなと感じさせていただき、何だかこちらも嬉しくなりました。

 

「やってみてダメなら他のことをやれば良い」、「必ずトップを目指して焦る必要は無い」といったアドバイスは、農業に限ったことではなく、多くの環境や境遇にも当てはまる人生の教訓だと思います。辻さんにこのようなアドバイスをした先輩農家さんがいて、辻さん、そしてこれから南陽市で新規就農される方にもこの考え方が受け継がれ、各世代が協力して農業を営んでいく状態になるのであれば、南陽市は辻さんのように活き活きとした農家が協力し合う素晴らしい地域になっていきそうですね!

 

同じように日々サラリーマン生活を送っていて農家としての独立に興味をお持ちの方、山形県置賜地域で就農を考えてみたいと思っている方など、今回のインタビュー内容が一つの参考になれば嬉しいです!

 

 

★本記事については、山形おきたま農業協同組合 営農経済部 営農企画課までお問合せください★

 

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〒999-0121
山形県東置賜郡川西町大字上小松978-1

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山形おきたま農業協同組合
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